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【コラム】Z世代は映画「シュリ デジタルリマスター」をどう観るか

いよいよ今週末(9月13日)に公開される「シュリ デジタルリマスター」
2000年に日本でも公開され大いに話題になった本作。韓国エンタメの力を初めて多くの日本人に知らしめたと言っても過言ではない傑作である。

だがこの作品は劇場公開後、その権利が宙に浮いた形になり、今日までリバイバル上映も配信もされてこなかった。DVDは販売されていたものの、長く世代を超えて継がれる機会を失ってきたのだ。

それがカン・ジェギュ監督自身の粘り強い交渉によって、公開から25年の時を経て4Kデジタルリマスターで蘇るのである。


公開前にその試写を鑑賞する機会を得て、筆者は21歳の新米インターンライターを同行した。昭和ど真ん中世代の筆者に対しZ世代ど真ん中2003年生まれの彼が、この映画をどう観るのかに興味があったからだ。

まず公開当時を振り返ってみよう。

1999年に公開(日本では2000年1月)された本作。コピーにある「韓流の原点にして頂点」は誇張でもなんでもない。だが当時は「韓流」なんて言葉もない時代。韓国ではようやく前年に日本の大衆文化が段階的に解放されはじめたばかりというそんな時代だ。(日本の大衆文化は、韓国で1998年から段階的に開放され、完全に開放されたのは2004年)

その後、BoAの日本デビューが2001年、日韓ワールドカップが2002年、そして冬ソナがNHK BSで初放送されたのが2003年である。その後の韓流ブームはご存知の通り。

自分自身を振り返ってみても、いまこういう仕事をしていながら「シュリの公開時ってそんな時代だったんだな」と改めて思う。そして自分の若かりし頃を懐かしみつつも当時のことを考えると、物語のベースにあるサッカー日韓W杯の熱狂も北の工作員によるテロの脅威も我々世代は十分リアルに受け止められるが、はたして再上映となる本作を今の若い人はどう見るのか。

業界志望だけあって「シュリ」の評判や物語の輪郭だけは知っていたものの、やはりDVDを手にする機会はなかったという彼はもちろん初見。
テロリストとの派手な銃撃戦、サッカー場に仕掛けられた爆発物によるテロには違和感はないという。だがそれは多分にハリウッド映画の派手なアクション(彼曰くミッション・インポッシブルのような)で見慣れた設定であり演出だからであって、違和感がないというのはエンタテイメントとしてのその展開やビジュアル的要素を指しているようだ。

物語の現実感としてどうなのか?

我々の世代は、ラングーン廟の大統領暗殺未遂事件(1983年)、大韓航空機爆破事件(1987年)をリアルにニュースで見ている。実行犯である金賢姫が猿ぐつわをされながらソウルに護送される姿には衝撃を受けた。そしてその後の拉致問題である。羽田空港からタラップを降りる5人の拉致被害者の姿も鮮明に記憶している。だから我々昭和ど真ん中世代はこの映画をリアリティを持って観ることができるし、南北分断の悲劇と切なく悲しいエンディングが胸に迫るのだ。

試写会の観賞後、居酒屋に連れて行ったZ世代にこういった時代背景を力説した。頭では理解したようだが、今や時としてネットミームのように扱われるかの国の最高指導者と、物心ついた頃から韓流エンタメが身近にある彼にそれは完全には伝わらなかった。


4Kデジタルリマスターされた本作。映像は素晴らしく美しくまったく古さを感じさせない。もちろん小道具のケータイはガラケーだしパソコンのモニターはブラウン管だ。それが気にならないほど引き込まれるのは脚本の力である。また出演者のファッションには懐かしさもあるが、キム・ユンジンの美しさは時代を超えている。

その後、例のインターンライターは先頃公開された「ソウルの春」を鑑賞し、その延長で「タクシー運転手 約束は海を越えて」(くしくも主演はシュリで韓国秘密情報機関員イ・ジョンギルを演じたソン・ガンホでもある)を観たと報告してきた。
自分が知っているK-POPに代表される華やかな韓国とは違う、そう遠くない過去の韓国現代史に興味が湧いたからだという。

切実なリアルとして観るか、壮大なエンタテイメントとして観るのかは世代によって違うのは致し方ないが、どう切り取っても傑作であることは間違いない。
Z世代がエンタテイメントとして観るならそれも良いだろう。完全なエンタテイメントとして受け取れる社会こそが望まれる社会でもある。

そして自分のような昭和ど真ん中世代にも強くお勧めする。未見であるならば絶対に、そして観たことのある方でも、4Kデジタルリマスターで美しく蘇った本作を劇場の大スクリーンで観ながら当時を振り返って欲しい。若かりしあの頃を愛おしくも感じ、また今の時代をありがたくも感じることだろう。

【ストーリー】
要人暗殺事件を捜査中の韓国情報部員、ユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)とイ・ジャンギル(ソン・ガンホ)。犯人と目される北朝鮮の女性工作員を追跡するふたりは、強力な破壊力を持つ液体爆弾を用いてのテロの脅威を知る。ターゲットは南北両首脳―。

『シュリ デジタルリマスター』
監督・脚本:カン・ジェギュ『JSA』 
出演:ハン・ソッキュ『八月のクリスマス』、キム・ユンジン『告白、あるいは完璧な弁護』、チェ・ミンシク、『オールドボーイ』、ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』 
主題歌:When I Dream(キャロル・キッド)

1999年/韓国/カラー/125分/ドルビー・デジタル/PG12/字幕翻訳:根本 理恵  配給:ギャガ ©Samsung Entertainment 

2024年9月13日(金)シネマート新宿他全国ロードショー!

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