チェ・ジウ7年ぶりのスクリーン復帰作となり、共演にミンホ(SHINee)、P.O(Block B)ら豪華キャストを迎えたチョン・ボムシク監督の最新作、映画『ニューノーマル』が絶賛公開中だ。





誰にでも起こり得る日常に潜む恐怖と絶望を描いた予測不可能な“新時代”の体験型スリラーと銘打つ本作。その日本公開を記念して開かれたプレミアムイベントにチョン・ボムシク監督が緊急来日。「Hwaiting!/ファイティン!」では監督へのインタビューの機会を得て、作品作りに対するこだわりや本作に込めた狙いなどを聞いた。





※注:以下あらすじ・ネタバレを含みます。





 





監督は「ホラー映画やサスペンス映画をつくるときに、演出だけでなく全てを設計しなくてはいけないと」おっしゃっていました。視覚的・聴覚的なものまで含めて。音楽に関してもあらかじめ構想しておられることが多いと伺いました。弊誌には音楽ファンの読者も多いのでまずは音楽に関して伺いますが、今回、作品全体を通してそれぞれのチャプターが本当に鳥肌の立つような怖さだしおぞましさなのですが、音楽のチョイスが絶妙で、エンディングではなぜか一抹の爽やかな後味まで残って、「これはなんなんだろうか」という感覚を覚えました。ユンサン音楽監督に対して何か具体的な要望やイメージを伝えたりされていましたか?





チョン・ボムシク監督:
私は普段シナリオ書く段階から音楽のことは考えていて、その構成まで考えているのですけども、今回の場合は撮影に入った段階でもまだ音楽監督が決まっていない状態でした。





使えると思って何曲かは選んでおいたのですが、まだこれをどうするかというのがはっきりしていませんでした。特に二つ目のチャプターなどは、どういう曲を使えばいいのかをすごく悩んでいました。





コンセプトとしてはディズニーの昔のモノクロアニメで、キャラクターが蒸気船を操縦しながら口笛を吹いている作品(編集部注:1928年公開・蒸気船ウィリー)、あのようなイメージがありました。





そういう感じで映像を作りたいと思っていたのですが、それに合う音楽が果たしてあるのかすごく悩んでいました。そんな中、ある時プロコフィエフの「ピーターと狼」を思い出して、それを使うことにしました。





それからまた一つは偶然と言えば偶然なんですが、私は以前からちょっと辛い時や疲れている時はよくユンサンさんの曲を聴いて力をもらったりしていました。今回の撮影現場に向かう車の中でその音楽を聴きながら運転していたところ、もしかしたらユンサンさんに頼んでもいいのではないかと思い至ったのです。





それで一度連絡をしてみたら、ユンサンさんは私のデビュー作『1942奇談』を凄く気に入って下さっていて、ご一緒していただけることになりました。





私は以前選んでおいた曲なども示しながら、どんな雰囲気が良いのかといったことをユンサン音楽監督と色々お話ししました。結果、私が説明した以上の答えを出して下さったことで、感じていただいたような力のある音楽が出来たと思います。





また今回の音楽ではユンサン音楽監督の知り合いの様々なミュージシャンが力を貸してくれたのですが、音楽監督の息子さんでアイドルグループRIIZE(ライズ)のアントンさんが参加してくれたことも一つの力になったと思います。





 





7年ぶりのスクリーン復帰作となったチェ・ジウさんの意外な正体がわずか十数分で分かってしまいます。そのことにものすごく衝撃を受けたのですが、監督にはその演出というか構成に狙いがあったのでしょうか?





チョン・ボムシク監督:
私がこの作品の構成を考えた時に思ったことが、まず最初に観客の皆さんに「これはオムニバスなんだ」と勘違いをさせることでした。それで最初の方でチェ・ジウさんの正体がバレて、その後に話が進んでイ・ユミさんのチャプターでエレベーターにまたチェ・ジウさんが現れる。 その瞬間の感覚は「あっ、この物語は別々ではなくて全て繋がっていて、絡んでいるんだ」というものだと思います。





これはあのクエンティン・タランティーノ監督のパルプ・フィクションのように、非線形型のシナリオに観客が後になって気付く構成にしようと思ったからです。





なぜかと言うと、日本もそうですし韓国もですが、「孤立」というキーワードが社会問題の一つになっていますよね。孤立によって若者たちが自殺をしたり、または色々な犯罪が起きたりする。特にパンデミック以降そういう傾向が強くなったと思います。





我々はそれぞれ別々に存在しているように考えているけれど、実際はお互いが影響を与えあっています。何らかの繋がりがあるというのを分かって欲しいというのがあって、最初はオムニバスだと思っていたけれど、後になってそれが全て繋がっている、絡んでいるっていうことに気づく。それが効果的に働くように構成を組みました。





 





■多くの方が同じだと思うのですが、最初にこの作品を見たときに、というかキャストが発表された時点で「チェ・ジウさんはいつ、どんなふうに襲われてしまうんだろう」と思っていました。それがまさかの・・・という展開になったわけですが、ご本人はスクリーン復帰作として本作を選んだことについて、「監督が熱心にオファーしてくださったから」とおっしゃる一方「これがどうして私のところに来たのかなと思った」ともおっしゃっていました。監督としてはどんな狙いがあって彼女にオファーをして、結果どうだったのかということをお聞きできますか?





チョン・ボムシク監督:
今おっしゃったように誰もが予想できないキャスティングにしたかったのがまず第一でした。誰を使えば誰もが予想できないキャスティングになるのかというのを探していました。





そのキャラクターの正体が分かった瞬間にその俳優さんが一番輝くことになると思うのですが、それを一体誰がやったら良いのかと色々考えた末に、チェ・ジウさんなら誰にも予想できないだろうと思って決めました。チェ・ジウさんご本人が「なぜ私ですか?」と言うくらいなのでこれは成功だったと思います。





 





■ハ・ダインさんについて伺います。とても魅力的でした。ラストのチャプターで非常に重要な役割だったと思いますが、彼女をキャスティングされた決め手について。また彼女は参加するにあたって、減量に始まり役作りのためのアルバイトや、監督にも何度も質問されたとも聞きました。彼女に対して特別に何か指導した点があればそれも教えてください。





チョン・ボムシク監督:
実はハ・ダインさんの場合は、この作品の前の企画で大型のファンタジーホラー映画のオーディションを通じてキャスティングが決まっていた俳優さんでした。ですが、その企画がコロナによって無くなってしまったのです。





今回の作品はその当時のスタッフたちがそのまま参加しています。そういった経緯でハ・ダインさんも一緒にやることになったのですが、正直なところ彼女にどこまでできるかを確認してみたいという気持ちは確かにありました。流れてしまった大型予算の前回の企画よりはある意味気軽にテストができると思ってやりました。





ハ・ダインさんは実際には凄く明るくて快活な性格なのですが、実は撮影の時期に彼女のお母さんがご病気であまり体調が良くなかったのです。それをケアしながらの撮影で色々苦労も多かったのです。





キャラクター作りのために減量をしたり、実際にコンビニで働いてそれを身につけたりもしたのですが、そういったお母さんの状況による暗い気持ちというのがキャラクターにそのまま反映されて、現代の若者たちの現状が投影されたキャラクターになったと思います。





 









 





■犯罪を犯すキャラクターの中に、社会的に弱者とされる「女性」や「お婆さん」がいたりしました。一般的には社会的弱者とされる人を加害者側に置いたということに何か意図はありましたか?





チョン・ボムシク監督:
私が最初この作品について考えたときは、サスペンスの基本に忠実な作品を撮ろうという考えはありました。ですが、実際に我々が暮らす現代社会は、今までは全くなかった凶悪な犯罪が起きたりしています。





韓国でも日本でも同じだと私は思うのですが、今まではお互いの間に存在していたそれぞれの安全を守ってくれる壁が崩れてしまったのではないかと思います。





それは法律であったり、規律や尊重だったりしますが、そういう壁があってそれぞれ安全が守られてきたのですが、それが崩れてしまったのではないか。今までは有り得ないと思っていたようなことが、もう平然と起こってしまうのが今の世の中ではないのかと。





同じ意味で、今までは犯罪者というと力の強い男性とか、何か下心のあるものとか、そういう典型的なものがありましたけれど、今はもう加害者に性別や年齢、社会的なステータスも全然違うようになりましたので、それを自由に設定してみようと思ったのです。





 





■今回の作品ではマッチングアプリが恐怖を演出する一つのツールとなっています。前作『コンジアム』では配信者いわゆるYouTuberというキャラクターが出ていました。監督はトレンドをうまく取り入れるなと思うのですが、そのあたりの意識や物事の見方などをお聞きできればと思います。





チョン・ボムシク監督:
今の社会は本当にコンテンツがありすぎるぐらいの状況なので、観客は以前にあったものだとそんなに興味を持たないと思います。





ただし、トレンディな材料は確かに利用しているのですが、実際の映画を作る方法としては古典的なところをもっと重視しています。





例えばヒッチ・コック監督のタッチやサウンドビジョンをどう使うべきか。いろんな素材を多く入れるよりは、それをどうやって少なくして効果的に発揮できるかということを考えています。





トレンディな素材を使うというのと、それを活かす方法は古典的なもの。この二つをミックスしてこの映画を作っています。





 





■今回の作品は『トリハダ(2007年)』からインスピレーションを受けたところがあると聞きましたが、他に何か日本のカルチャーや人、作品で影響を受けたものはありますか?





チョン・ボムシク監督:
この映画を作ろうと思ったときに様々な材料を集めてテーブルに乗せました。韓国で実際起こった犯罪、異常な事件とか、ちょっと不思議な出来事など。





そういったものをたくさん集めて整理をしていたのですが、その作業の中で我々のチームの一人が、「『トリハダ』という日本のドラマに似たような事件を扱ったエピソードがあります」という話をしました。





それを聞いて、もし内容が似ているのならばちゃんと版権を購入して作った方が良いと考え、フジテレビさんに連絡して版権を得ました。その時のフジテレビさんの反応は「こんなに古いドラマを買ってどうするんですか?」という反応でしたが。(笑)





そのほかにも様々な記事を集めたりしましたが、特に多く見たのがドキュメンタリーでした。最後のチャプターのコンビニのブラッククレーマーの実態や働いているアルバイトの方たちの話、年頃の若者たちが孤立して自殺したり孤独死したなどといったドキュメンタリーを見ましたし、またそういう風に亡くなった方のご遺体を処理する方の話も集めました。そのようにしてリアルさを出す工夫をしました。オープニングとエンディングで流れている事件を報じるナレーションは、実際に韓国で起きたものをそのまま使用しています。





 





■監督が日常生活の中で最近ニューノーマルになったと思うことはありますか?





チョン・ボムシク監督:
これは映画の中にもあると思いますが、韓国では最近全く知らない人をすれ違いざまに襲うといった事件がしばしば起こっているんですが、まずそれでみんなが驚いたのは当然ですが、その後ネットにそれと似たような事件を予告する書き込みが現れたりしました。それが本気か悪ふざけかはわかりませんが、これはちょっと違うなと、以前とは全然違う世の中になったなと感じます。そのことで防護服の会社の株価が上がったりしているのを見ると、これは一体どうしてなんだろうっていう気持ちになりました。これこそがニューノーマルかなと思います。





 





■わかりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。





 





最後に監督から、「ところであなたはどのチャプターが面白かったですか?ここまでは私がずっと答えてきたので、参考までにお聞きしたいです」と逆質問を受けた。油断していた記者は咄嗟に「P.Oさん(ピョ・ジフン)のチャプター」と答えた。本作がスクリーンデビューである彼のコメディタッチな演技はとてもハマっていたし、笑いの反対側にある猟奇的カップルの得体の知れない恐ろしさとのギャップにゾクゾクしたからだ。





その答えに笑って頷いたチョン・ボムシク監督。どんな質問にも深く丁寧に答えてくれて、写真撮影では「どんなポーズが良いですか」とこちらに気を配る姿勢に監督の人柄も感じるインタビューとなった。














映画『ニューノーマル』90秒トレーラー






https://www.youtube.com/watch?v=KI5azjtP0Qc




<作品情報>





『ニューノーマル』





監督・脚本:チョン・ボムシク「コンジアム」





出演:チェ・ジウ「冬のソナタ」、イ・ユミ「イカゲーム」、チェ・ミンホ(SHINee)「ザ・ファビュラス」、
ピョ・ジフン(Block B)「ホテル・デルーナ」、ハ・ダイン、チョン・ドンウォン





2023年/韓国/韓国語5.1ch/113分 原題:뉴 노멀(英題:NEW NORMAL)





字幕翻訳:根本理恵





提供:AMGエンタテインメント ストリームメディアコーポレーション





配給:AMGエンタテインメント





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公式サイト: https://newnormal-movie.jp/



2024/08/23 11:53 配信
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